父の葬儀で喪主を務めたのは、今から五年前のことです。何から手をつけていいのか分からない私を、父の兄弟である叔父たちや、近所の町内会の皆さんが本当に親身になって支えてくれました。受付から駐車場整理、湯茶の接待まで、皆さんがいなければ、とても葬儀を執り行うことなどできなかったでしょう。問題は、その感謝をどう形にすればいいのか、ということでした。葬儀が終わり、少しだけ息をついた時、母から「お手伝いしてくださった方々へのお礼を準備しないと」と言われ、私は途方に暮れました。現金でお渡しすべきなのか、それとも品物が良いのか。金額の相場はいくらなのか。インターネットで調べれば調べるほど、様々な情報が溢れていて、何が正解なのか全く分かりませんでした。特に悩んだのは、親族である叔父たちへのお礼です。身内だから何もしなくて良いという意見もあれば、親しき仲にも礼儀ありで、他人以上に丁寧にすべきだという意見もありました。父が亡くなった悲しみと、慣れない儀式の緊張感で疲労困憊していた私は、この「お礼問題」で精神的に追い詰められていきました。見かねた葬儀社のベテラン担当の方が、私にこうアドバイスしてくれました。「一番大切なのは、金額や品物そのものではありません。あなたが、どれだけ感謝しているかという気持ちが伝わることです」。その言葉に、私ははっとさせられました。私は、マナー違反にならないか、世間的に見て恥ずかしくないか、ということばかりを気にしていたのです。私は、叔父たちには「本当に助かりました。父も喜んでいると思います」という手紙を添えて、少し上等なお酒を贈りました。町内会の皆さんには、一人ひとりに「お疲れ様でした」と声をかけながら、現金を入れたポチ袋を手渡しました。金額が適切だったか、品物が気に入ってもらえたかは、今でも分かりません。でも、お礼を渡した時に皆さんが見せてくれた優しい笑顔は、今も私の心に焼き付いています。形も大切ですが、それ以上に、心からの感謝を自分の言葉で伝えること。それが、私がこの経験を通して学んだ、一番大切なお礼の形です。