愛犬と共に見送った父の背中
父が亡くなったと知らされた時、私の脳裏に真っ先に浮かんだのは、父の傍らでいつも丸くなっていた老犬、ポチの姿でした。父にとってポチは、単なるペットではなく、晩年を共に過ごしたかけがえのない相棒であり、息子同然の存在でした。だから、父の葬儀にポチを連れて行きたいと私が言い出した時、親戚の中から反対の声が上がったのは当然のことだったかもしれません。前代未聞だ、非常識だと。しかし、私には確信がありました。父の最後の旅立ちに、ポチがいないなんて、父が一番悲しむだろうと。私は葬儀社の担当の方に必死で相談しました。幸いにも、私たちが選んだ斎場は小規模な家族葬専門のホールで、他の利用者がいない時間帯であればという条件付きで、特別に許可をいただくことができました。私は親戚一人ひとりに頭を下げ、アレルギーの有無を確認し、万が一のことがあればすぐに別室に連れて行くことを約束しました。葬儀当日、ケージの中で静かにしていたポチを、お焼香の時だけそっと抱きかかえて祭壇の前に進みました。父の遺影を見つめるポチの潤んだ瞳を、私は忘れることができません。まるで、大好きだったご主人様に、ちゃんとお別れを言っているかのようでした。その姿を見て、あれほど反対していた叔父が、そっと涙を拭っていたのが印象的でした。もちろん、誰もが同じようにできるわけではないことは分かっています。多くの準備と、周囲の深い理解がなければ実現しなかったでしょう。しかし、父が愛した小さな家族と共に、父の背中を見送ることができたあの時間は、悲しみの中にあった私の心を、確かに温かい光で照らしてくれました。常識や慣習も大切ですが、本当に故人を思う気持ちがそこにあるのなら、時にそれを超える選択があっても良いのではないかと、私は信じています。